date 2010.12
陶芸の魅力と一言で言ってもその関わり方は人それぞれで、私の場合はお仕事としての作り手になるわけですが、陶器を集めるのが好きな方、お料理を作るのが好きで、そこから陶器に興味を持つ方、食べるのが好きでそこから陶器に興味を持った方、作るのが好きで陶芸教室に通う方、お茶やお花から陶器にきょうみを持つ方、いろいろあると思います。 今回は手前味噌ではありますが『陶芸』というキーワードから生活をたのしくするたくさんの事につながっていくお話をできればと思います。
■アドバイザーのご紹介
馬目隆広
東京芸術大学美術学部 彫刻家大学院卒業。在学中より東京竜泉窯・小山耕一氏のもとで陶芸を習得。 現在 足立区の陶芸教室『アトリエ器楽里』講師としても活躍。 笠間市(旧 岩間町)のスタジオにて陶器など制作し個展を出展。
まのめ工房 馬目隆広
茨城県笠間市上郷2895
電話 0299-45-5969
メール manoichi@rouge.plala.or.jp
『食べる事と陶芸』
学生の頃は自分で料理をする事など無く、珈琲もインスタントで十分な自分でしたが、陶器に興味を持つようになると 何となくパスタくらいは自分でゆでてみようかなくらいの気分になってきます。 ちょうど自分でアトリエを借りて自炊する機会が増えて来たせいもあるでしょう。生活するなかで陶器を楽しく使いこなすことに目をむけるようになります。 そうすると、自分で使いたい陶器を作るようになり、作陶もより具体的なものを作るようになります。
相乗効果ですね。 飯碗に始まって、パスタを乗せるお皿、友達が集まるようになるといくつかお揃いの取り皿も欲しくなります。 お魚のお皿も、食べたい魚によって形がいろいろある事に気がつきます。 鮭の塩焼き、アジの開き、さんま皿、お刺身のお皿。 はたまた、土鍋ごはんにもはまり、毎回ごはんは、自作の土鍋で炊くようになりました。炊き方もなれると簡単です。 ちなみにいま私は炊飯器はもっていません。
最近は、朝ご飯を食べない方が多くなったとか、忙しくてレトルト食品の食卓が増えた話も耳にします。 自分も毎食なにか作っている訳でもないのですが、例えば忙しくてお惣菜を買って来てしまったときでも、せめて 気に入ったウツワに入れて食べたいなと思うし、簡単なラーメンとかでも自作のウツワで食べるとひと味ちがいますね。
そして自分の場合は、珈琲を楽しむ事がひとつ盛り上がっていまして、 珈琲カップはいろいろつくりました。
そして、最初は挽いてある珈琲豆を買っていたのですが、そのうちに珈琲ミルを購入して、自分で豆を挽くようになります。 ペーパードリップからネルドリップ、サイフォンも試してみたりして。 そこからホーローのポットやらコースター、やかん、スプーン、などなど、いろんな雑貨にも興味はひろがります。きりがないですね。 陶芸をする事、またはウツワに興味を持つ事によって、食べる事とか生活がより面白くなったと思います。
『植物と陶芸』
私の中では、まだ未開拓な部分ではあります。お茶やお花などの習い事をしていると入りやすいのでしょうか、 部屋に草花を飾る感覚というのは。
最近は多肉植物や苔玉など、気楽な入り口もあると思います。 田舎で暮らしていると、身の回りの自然のありがたさがわからなくなる事がありますが、季節の草花を楽しむ感覚はもっていたいなと思います。 自分で花器などを作る事もありますが、よく思うのは花入れに草花の文様がすでに描いてあったりするのはちょっとどうかなと、 陶器をひとつの芸術作品と考えた場合それもありですが、草花を生ける額縁と考えた場合なるべく自然な物を作りたいなと思います。そしてなんでもない野の花が似合う物がいいなと。
また自分に子供ができる年代になってくると、家庭菜園を多少やってみたりとかタケノコを掘りに行ったりだとか、そういう事にも関心が出てきます。 野菜にも季節感があるということは、忘れかけていましたが、子供たちに少しでも感じてもらえればと、そんなことも私の中では陶芸の延長上にあります。
『陶器を作るたのしみ』
一度は陶芸をやってみたいという方は多いと思います。 土器を作るというのは太古の昔からありますが、どこか一カ所で始まって世界中に広がったというよりは、あちこちの地域で自然発生的に始まったと考えるのが通説のようです。可塑性のある粘土で形を作るということは、誰のDNAの中にも当然のようにあるのでしょうか、しかも、子供からお年寄りまで、みんなが楽しめます。 最近は安全のためなどでオール電気のご家庭があったり、都心ではたき火などできない地域もあります。また生活環境も清潔になり、泥遊びをする機会も少ないと思います。 そんな中で、陶芸は泥で遊んで、それを炎で焼くという行為です。特に子供たちには、小さい頃にドロドロになって遊んで、できれば、たき火でもバーベキュウでもなんでも、炎を体験するというのは大事ではないでしょうか。
そして物作りというのは、お金を出せば何でも買えるというのではなく、自分で工夫して、使いやすいものを考えるという事につながります。壊れたら直してまた使うという意味にもつながるでしょうか、日本には金直しと言って、割れたウツワを直して使うという文化もあります。
また日本は世界の中でも最も陶芸が盛んな国だと言われています。最先端の科学技術、産業があるなかで、陶芸の世界にはいまだに桃山時代の技術で薪の窯を焚く人がたくさんいます。まったくもって不思議な国です。
ちょっと話がおおげさになってきましたが、ウツワを作るという事は、単に粘土をこねることからひろがっていろんなことを学べるはずです。
最後に
つらつらと、とりとめも無く書きましたが、陶芸をやっていますと、土、炎、水、植物、食べ物など、 身の回りの何でも無い事に楽しみや大切な事を見いだそうとするというのでしょうか、海外旅行や、おいしい物を食べに遠くへ出かけたり(それはそれで楽しいのはもちろんですが)しなくても、毎日の食事や足下に生えてる草花に気をつけてみるというか、そういうことの意味に気づかせてくれるのが陶芸の魅力のような気がします。
なにかひとつでも、気に入ったウツワを手に入れてみて、または作ってみて、そこからいろんな世界が広がればいいなと思います。